SF(すごく不条理)

崖の上のポニョ」を観てきました。
……今世紀最大のトンデモ映画!
宣伝チラシに書いてあったあらすじがすでに異様な匂いを発しており、ただのほこほこした映画ではないだろうとは思っていたものの、まさかここまでサイケデリックなおはなしだとは。
具体的な内容は書きません(書きようがないとも)が、徹頭徹尾何かがズレている。「千尋」なども、同様に「奇妙なものを奇妙なまま描いた」映画だとは思うんだけど、「ポニョ」の場合は表面的には一見フツーっぽい世界であるにも関わらず、全体の土台がグニャリと歪んでいるというか。「さあ、これからヘンな世界へ突入します!」という合図もないまま、だんだん奇妙なことの度合いが高くなっていく(しかも「ホラ! 奇妙でしょう?」という顔を誰もしない)。しいて言うなら、オープニングから5分のカラフルすぎる色使いが「もう始まってますよ?」という合図にも取れる。途中、主人公の母親が(ちょっとネタバレ)「これから不思議なことが起こると思うけど、大丈夫だから」的なすごくアバウトな励ましを息子にするんだけど、これは観客に向けて言っているような気がしてならない。
色彩感覚が異常に豊かなことや、粘度の高い水、奈良美智の描くあまーい顔の子供(自主規制)と似た表情、生まれたばかりの子供たちと終わる寸前の婆ァたち、矢野顕子の無駄使い(笑)、ポニョの不気味すぎるメタモルフォーゼ、ポニョ父の謎の計画&研究、牧歌的すぎる(麻薬のように!)主題歌、エトセトラ。すべての状況がこんがらがった結果、常軌を逸した不条理アニメが出来上がっている。
竹熊さんは「つげ作品」を引き合いに出しているけど、これが一番飲み込みやすい説明かもしれない。その奇妙な世界観を「絵本的だ」だとする解説?もよく見かけるけれど、絵本の場合は受け手が自分のペースで「えとぶん」以外のすべてを自分なりの色に染め上げることができるからこそ成立する部分が多いわけで。しかも絵本は気の済むまで「巻き戻し」ができるけど、映画である以上それは(DVD化するまで)不可能。「え、ちょ、何? ちょ、待っ」とか思っている間にもどんどん話は進んでいく。
何がこんなに落ち着かないんだろう、というのを今冷静な頭で思い起こしてみると……登場人物たちの「こうしたい!」という動機と「こうなれ!」という情熱が一応描かれてはいるものの、それが超アバウト。という感じがするからなのかなー。善悪が曖昧、という最近の駿作品の流れもここまでクると恐いっつうか。あとエンディングについては、ハッピーエンドっぽい雰囲気とは裏腹の「えっ、でもコレこの後色々と問題あるんじゃ……」感がとにかくすごい。この辺についてはもっと時間が経った頃にネタバレ込みで改めてアレしたい。
一番の問題は、ターゲットであるはずの子供たちがコレをどう観るか。実際、途中「恐い〜」と泣いてる子供がいたし、客席がドッと笑うゆかいな描写も2回だけ。上に書いた「絵本的」の話とも重なるけど、元・絵本業をやっていた私の意見としては「子供はベタに『子供的』なものを与えなくても、勝手に楽しむ」ものだとは思うんだけど……このおはなしはどうなの? 本格的に錯乱する子供が出てもおかしくない気がする。が! 最終的にあの曲で〆られたらもう何も言えない。あの歌声とメロディの説得力には恐怖を感じる。でも歌詞の内容と実際のおはなし、ズレすぎてねぇ?
……と、色々書きましたけど、面白かったかどうかという話をするならば、スッゲー面白かった! これはあと数回観ると思う。でも甥っ子や姪っ子には全力でおすすめしない。