よくしゃべる機械

我が町にあるチェーン系丼ショップには食券を購入するための券売機が設置してあるのだけれど、これが言葉を話すタイプの機械で、これがどういうものかご存知ない方のために一応説明しておくと、カツ丼を誂えてもらおうとそのボタンを押すと
「カツ丼」
とすました女性のボイスが店内に轟くシステムになっており、それを聞いた店員が食券をチェックする間もなく臨戦態勢に入ることができ、結句業務がスピーディーに行われ、カツ丼はスピーディーにカウンターに並び、そこにいる誰もが仕合わせな気持ちになれる機械なのです。ですが、これが仕合わせだとばかりも言っていられない。なんとなればこの機械、店員に声を轟かせなければいけないという性質上、すました女性の声であるとはいえ相当に大きく、ゆえにどういうことが起こるのかというとこうだ。私はカツ丼が食べたいのであるが、私がカツ丼を欲していることが、店員はおろかそこにいる者ら全員に知れわたってしまうのである。プーッ、クスクス。こいつカツ丼が食べたいんだって。カツ丼が欲しくて欲しくてたまらない顔をしているよう。おなかとか空かせちゃって。欲望丸出しでカツ丼をむしゃむしゃ喰うのだぜ。プークス。といった意味合いの視線が直接向かわないまでも、券売機のボタンを押した瞬間に「カツ丼が欲しくてたまらない奴」のレッテルを張られるのである。頬を赤くして、口をすぼめて、もそもそと口に運ぶカツ丼が美味しいわけがなかろう。
「そんなハートの弱いことでどうするか」「みんな同じ目に遭っているんだから、気にしてもしようがない」「店員に口頭で注文を伝える店だって同じだろう」「えー」といった声は予想した上で長々と書いたが、共感してくれる人だけに向け書いている。アレなんなんだろうね。機械のおばはんの声が無機質であるがゆえ、よけいに虚無的な気持ちになるのか、言いようのない恥ずかしさがあるのよね。「みそしる」。うるさいよ。食欲の“欲”の部分がむき出しになる無機質さというか。「みそしる」。もう! やめて!