二十五人の白雪姫

 初めて立ち寄った街の、初めて立ち寄った花屋。というより、かつて花屋に立ち寄ることなどなかった私がなぜ、この時にかぎって花屋に立ち寄ったのか。そもそも私はなぜこの街に立ち寄ったのか。
 街はひどく寂れていて、駅を降りてすぐの、商店街と呼ぶにはあまりに貧相な通りを抜けた少し先に、その花屋はあった。店先に雑然と並べられた花はしかし美しく、良い香りで、私は思わず足を止め、並べられた花々に見とれた。
 そのうちのひとつ、やけに鮮やかな色をした白い花。はて、これはなんという花だろうか。しかし店員の姿は見当たらず、店の奥、おそらく店主の住まいになっているであろう扉の先に何度か声をかけてみたのだが、いっこうに誰も出てくる気配がない。と、レジの横に置いてあった小袋が目に止まった。
「白雪姫の種」
 私はこれをひとつポケットに詰め、店を出た。昼間だというのに人の気配のまるでない商店街。
「白雪姫の種」
 小袋にはこげ茶色をしたちいさな種が25粒、入っていた。庭先のプランターにこれを植えると、ほどなく小さな芽が顔を出し、やがてちいさな緑色の葉が開いた。ひどく見覚えのある、頼りなく細い茎。
 かいわれじゃないか!

参考:http://q.hatena.ne.jp/1213941881