落ち着いたほうがいい


レジにカゴを置くなり「えへぇ!」という奇声が聴こえてくれば、大抵の者は身構えると思う。私だってそうだ。何が起こったのかと思えば、奇声を発したのはレジの向こうにいる店員で、こちらに敵意を向けているわけではないことは表情で分かった。しかし「えへぇ!」とは何事だ。
その後すぐ、これは奇声ではなく、単に滑舌の悪い彼なりの「いらっしゃいませ」であると理解できた。できはしたが、続く会話(会話?)のひとつひとつが、滑舌の地平を大きく超えた、ただの奇声で。私もそれほど滑舌が良いほうだとは思わないが、これは何かもう、違うジャンルのものなのではないか。
「やへぇ(いらっしゃいませ)」
「えしふしょっしゃっか(レジ袋はご利用でしょうか)」
「ごういってん(ゴボウが1点)」
「えっぱっさす(580円になります)」
「さしたい!」と言われふたたび身構えたが、これがおそらく「ありがとうございました」なのだろう、と理解するぐらいの能力は会計を終える頃には身に付いていた。
……というのが年末だか年始だかぐらいの話で、つまり3ヶ月かそこら経ってるわけだけど、も、全っ然成長のあとが見らんないの。何らかの身体的な問題とかではなく、単に慌てすぎからくるものっぽいんだけど、少し落ち着け。というか同僚や上の者は向こうから奇声が聴こえてきて「さすがにお前、ちょっ」とは思わないのか。接客の人なら気になるだろうに。あの、毎回噴きそうになるんで、ある程度で勘弁して下さい。
滑舌と言えば、さっき電話で実家に「引っ越しをするので保証人になってほしい。近く書類的なものが届くので」と電話すると父親が留守で、母親にその旨伝えるようお願いしたら、いつの間にか俺が出航することになっていた。夢いっぱいか。